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サンディエゴ木村です。音楽とゲームが好きです。カリスマブロガーを目指します

サンキム書評#3 『日の名残り』

第三回目の今回はカズオ・イシグロの小説『日の名残り』を書く。この小説はブッカー賞を受賞した有名な作品で、これも例の如く授業で読む必要があったというのがきっかけ。書く。

 

あらすじ

舞台は第二次世界大戦の直後のイギリスで、年老いた執事であるスティーブンスが新しいアメリカ人の主人との付き合い方や屋敷のスタッフ不足に悩ませれるところから始まる。数々の困難に辟易していたスティーブンスだが、かつて一緒に働いていたミス・ケントンという女性から手紙をもらったことで、彼女に戻ってきてもらえれば万事解決だと考え、新しい主人の勧めもあって彼は旅行に出かける。彼女と共に前の主人の元で働いていた頃の思い出を懐かしみながら旅をするという話である。

 

感想

この小説の面白い部分は主人公のスティーブンスが生真面目と言えるほどに真面目であるというところで、それは執事としてはこの上ない才能なんだけど、新しいアメリカ人の主人のジョークが理解できなかったり、またアメリカ風のジョークを試してみるけどトンチンカンなことを言ってしまったりと、本人は意図していないけどすごく滑稽、みたいな場面が多くある。翻訳され方もそのキャラクターの感じに一役買っている気がするね。そういう憎めない愛されキャラ的な描かれ方が主人公としてすごく魅力的だった。

 

あとは前の主人の描かれ方が面白かった。前の主人はめちゃめちゃ偉い人でスティーブンスはそのことを誇りに思っているし、彼のことを敬愛しているんだけど、読み進めていくうちに

あれ、この人悪い人じゃね!?

ってなる。実はこの人はイギリス人ながら戦時中ドイツとつながりがあった人で、ドイツに良いように使われていた。まあ、戦時中の裏切り者は悪者か?という議論はさておき、そんな彼はイギリス内ではとんでもない嫌われようだってことに読んでるうちに気づく。その書き方もうまくて、彼を敬愛し、誇りに思うスティーブンスの視点だから最初は彼のことを悪く言ったりしないしそういう描写もない。でも、だんだん彼の思い出に触れていくとそういう史実が輪郭を表していく。この歴史的背景と組み合わせて考えられている感じは随所にでてきていて、最高に面白かった。

 

最後まで読むとタイトル『日の名残り』にはいろんな含みがあるんだな〜ってすごく腑に落ちる。最後の方、桟橋で男に話しかけられるシーンがあって、その男が言うセリフが象徴的で好き。

「人生、楽しまなくっちゃ。 夕方が一日で一番いい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方が一番いい。」

 

 ん〜